ミュージカル 『ビューティフル』
男性キャストインタビュー


(左から、伊藤広祥、神田恭兵、長谷川開、東山光明、山田元、山野靖博)

ミュージカル『ビューティフル』の主人公のキャロル・キング(水樹奈々・平原綾香)やそのパートナーであるジェリー・ゴフィン(伊礼彼方)、ライバルのバリー・マン(中川晃教)&シンシア・ワイル(ソニン)といった面々は、音楽を作り出すクリエイター。業界で言えば、いわば“裏方”の人々であり、彼らが生み出す楽曲は、数々のスターたちによって歌われヒットしていきます。劇中、それらのヒットソングを歌うスターたちに扮するキャストも、歌唱力抜群かつ個性豊かなメンバーが揃いました。彼ら彼女らの魅力を伝えんと、座談会を開催! 意外な一面からおススメのシーンまでを存分に語ってもらいました。伊藤広祥、神田恭兵、長谷川開、東山光明、山田元、山野靖博の男性チームをご紹介!!

初演を経ての2020年版『ビューティフル』、
ずばり手ごたえは?

――まずは自己紹介からお願いします!

伊藤広祥

普段、時間があるときはサッカーが好きなのでよく観戦に行ったりしています。最近は筋トレにハマりまして、ステイホーム中はベンチ台に可変式のダンベルも買いました! でもスペースがなくて狭いところに置くだけになっていまい……ちゃんと使えるようにしたいです(笑)。あとは料理が好きです!

神田恭兵

僕も、もともとは筋トレやランニングが大好きだったのですが、この自粛期間で全然やらなくなってしまって。最近はパソコンでゲームばかりしています。好きなことが固定ではなく、その都度変わっていくタイプです。

長谷川開

普段はこうして舞台に立たせていただく仕事を少しやらせてもらいながら、ボイストレーナーとして活動をしています。趣味は映画観賞や……僕も筋トレです(笑)。

東山光明

僕は、自粛期間中は普段作らない料理を作ったりしていたのですが最近はめっきりやらなくなってしまいました。そして動画配信をすごく見るようになりました。人から面白い映画やドラマの情報を訊き、たどり着いたのはやっぱり『愛の不時着』でした(笑)。最初は食わず嫌いだったのですが、一度見ると止まりませんね。

山田元

僕は普段、舞台がないときはお花のお仕事をしています。自分で花を入荷して、生のお花をアレンジしたり、ブリザーブドフラワーで作品を作ったり。あと最近は撮影の仕事もしています。自粛期間中には花の市場に仕入れにいくために(車の)免許を取りました! 今までは遠い市場まで電車で行って、花を抱えて満員電車に乗って帰ってきていたのですが、最近は車で行って帰ってこれるようになりました。

山野靖博

僕は普段は料理が好きなので料理をしたりしていますね。あとは本を読むのが好きです。最近は民主主義についての本を読んでいます。民主主義が出来上がった時代と今では全然情報技術が違っているので、その中で古い枠組みがどこまで機能するのか、という。先日は剣幸さんに小川糸さんの『ライオンのおやつ』という本をお借りしました。すごくよかったです!

――みなさん初演からのメンバーですね。再演版『ビューティフル』、手ごたえのほどは。

神田

追い詰められている感もないし……上っていく現場だなと思います。

東山

稽古がすごいスムーズにいっているんです。それはみんな、初演のときにやったことが身体にしみ込んでいるからなんだろうなと。だからすごく進みが早い。充実しています。

神田

みんながすごく成長したのがわかる。それぞれがこの3年間で様々な経験をして、レベルアップしているんだなというのは見ていて思います。

山野

MARIA-Eちゃんなんかはこれが初ミュージカルだったんだよね。僕も商業ミュージカルは2作目でしたが。

長谷川

僕も初演が初めてのミュージカル出演でした。

山野

開君はこないだすごく(リステージの上田)一豪さんに褒められていたよね。ソロの歌い終わりが本当にスターのようで素晴らしいって。

長谷川

ありがとうございます。

――どなたが一番、思い出すのが早かったですか?

長谷川

ヒロ(伊藤)じゃない?

東山

ドリフターズに関してはそうだね。
※ザ・ドリフターズ=人気黒人グループ。伊藤、神田、東山、長谷川の4人が演じている

伊藤

僕も『ビューティフル』が商業作品としては2作目で、共演の方の名前を見たらすごい方ばかりで、本当に必死だったんですが、お兄ちゃんたち(ドリフターズのメンバー)には歌から踊りから何もかも頼りまくってしまって。3年ぶりの再演で、初演時にあれだけ頼ってしまったから今度は何かその恩を返すことができれば、僕の3年の成長を見せられたらと思って、稽古に入る前から初演の雰囲気とかを必死に思い出したりしていました。でも結局やっぱり皆さんには頼ってしまっています。

山田

ドリフターズは補い合っている感じがいいよね。仲の良さ、絆の強さを感じる。

長谷川

“思い出し稽古”も、ひとりずつ持ち寄って「こうじゃなかった?」ってやっていたよね。

東山

そうそう。パズルを埋めていくみたいに。

伊藤

でもその作業が楽しかった。

神田

初演のときはドリフターズの稽古と、メインの皆さんの芝居の稽古が完全に分けられていて。僕らは振付稽古を毎日やっていた。しかも僕ら、もともとダンサーというわけではないので。オーディションの時なんかみんな、1ミリも踊れなかったよね(笑)。

長谷川

最初の3歩だけステップ踏んで、あとは僕は揺れていました(笑)。

山田

オーディションは『On Broadway』でしたよね。

長谷川

元君はめちゃめちゃ踊れてた、覚えている。

――対して、山田さんと山野さんは目立つところではライチャス・ブラザーズ役がありますね。

東山

このふたりの絆もね! すごいよね。

長谷川

ふたりともめちゃめちゃ歌がパワーアップしているし。

山野

特に元がね!

山田

相方のヤスと歌唱指導のなつこさん(高城奈月子)にサポートしていただいて。今まで自分が見つけられていなかった声を今回発掘できています。毎日ドキドキしながらもワクワクしています。

それぞれの注目ポイント

――本作での皆さんの注目ポイント、お互い見ていて「ここが素敵」というポイントを教えてください。まずは伊藤さんについて。

長谷川

パッションがめちゃめちゃある。情熱的だし真剣。

山田

作品を、誰よりもよくしようって自分にプレッシャーをかけているのは、ヒロかもしれない。その精神が素敵です。

神田

僕も本当はそうありたいと思っているんだけど、ヒロのように熱くはなれないですね、疲れちゃう(笑)。でも『On Broadway』の入ってくる感じ、イキがっている空気とかパッションはすごくいいし、ヒロの背中を見ていると俺もドリフターズとして飛び込んでいきやすい。

東山

うん。僕はこの初演の時にヒロとは初めて会ったけど、ドリフターズとしての第一声がすごく良くて、あとから年齢を聞いて「こんなに若いのにこんな歌い方できるんだ」って思った覚えがある。4人のシーンでは基本的に歌で引っ張っていくのは開なんだけど、ヒロはドリフターズの中のダンスリーダー的ポジションを自然と担ってくれているよね。いつも冗談ばかり言っているけど頼りにしています。

伊藤

俺、今日は家に帰ったら泣きます(笑)!

――では神田さんのおススメポイントを教えてください。

山野

神田さんは今回『On Broadway』のソロがめちゃめちゃカッコいい。もともと煌びやかな声をお持ちで、初演の時も素敵だったのですが、今回、歌唱指導のなっちゃんの抜き稽古を経てめちゃめちゃソウルフルな歌声になっていて。「フゥ~!」って感じになっていた。超カッコいい! 神田さんのファンの方も、今までのイメージとは違う歌声が聞けるんじゃないかな。

神田

なつこさんのおかげです。どんなしごきが待っているのかと思ったらあの30分間(稽古)はめちゃくちゃ楽しかった……。

東山

それにカンちゃんはめっちゃ落ち着いているよね。ドリフターズの中で言うと、ヒロがすごくよく喋る子なんです。ずっと喋っている。それを嫌な顔ひとつせず「そうだよね」「そういうこともあるよね」って付き合ってあげている(笑)。俺だったら「喋りすぎやねん!」って絶対言っていると思うけど(笑)。

神田

だってポジション的に俺、次男じゃないですか、ミツさんが長男だとしたら。だからバランスを見て。末っ子(伊藤)の相手をしないと(笑)。

長谷川

バランスをとる係ですよね。めっちゃ誠実ですし。初演は先ほども言ったように僕はミュージカルが初めてだったのですが「ここはこうだよ」と色々と教えてくれたなって思い出しました。

東山

実際のドリフターズはメンバーが替わりまくっているんですが、カンちゃんみたいな人がおったら、うまくいっていたんじゃないかなって思います(笑)。

伊藤

あと、さらっとすごいことをやる。さっきの歌が急に上手くなったというのも、もともとの土台がないと20~30分の稽古で上手くなんかならないですよ。しかも「なつこさんのおかげです」って! 謙虚! 俺だったら「この音が出たんです、どうすか!」って自慢してますよ(笑)。カッコいい。こうじゃないとモテないなって思う。

長谷川

僕は(ボーカルサブリーダーで)歌のアドバイスをしないといけないシチュエーションがあるのですが、僕の方が年下でミュージカルのキャリアも浅いのに、「わかりました」ってめちゃくちゃ謙虚に受け止めてくださっています。その姿勢もリスペクトしています。

神田

いやそれは、みんながそれぞれちゃんとした技術や能力を持っていることがよくわかっているので。そういう人たちが本気で言ってくれる言葉をちゃんと受け止めないとダメだなと思っています。そういう意味では僕も皆さんをリスペクトしているからこそですね。

東山

なかなかないよね、こういう、お互いが尊敬できるカンパニーって。

神田

なかなかないですよ。

――次に長谷川さんについて、お願いします。

神田

最近気づいたんだけど、朝、稽古前に開は全ナンバーを絶対にチェックしているよね。あのストイックな姿勢は見ていて気持ちいい。

山野

開君は結構ジムに行くそうなんですが、ジムの鏡前でダンスの練習をしているそうです。

長谷川

サンドバッグのある中で。ボクシングをしている人が「…やべえヤツがいるぞ」って見てくる(笑)。前にバスケットコートがあるのですが、バスケやっている子たちも見に来ます。

東山

その視線の中でへこたれずにやる精神もすごいよね(笑)。

長谷川

それどころじゃなく真剣だから!

東山

でも歌に関しては開には絶大な信頼があります。彼に訊いたらどんな質問も返ってくる。すごい人だなって思います。

山野

初演の時の、全員集まった最初の歌稽古での、『Some Kind of Wonderful』を歌ったあとのみんなの空気感は今でも忘れられないです。稽古場全体が開君の歌声に「えええええ!?」ってなった。音域として高いところが出るという人はいますが、開君は圧倒的に音色がいい。あの音色が出せるというのはすごいです。

東山

しかもこんな感じなのにけっこう人の物まねとかもして。お茶目で変なところもある(笑)。

伊藤

あと毎日稽古場で大爆笑しているよね。立てなくなるくらいの笑いをしているよね。

長谷川

それはちゃんと理由があるからね(笑)。

――では東山さんの素敵ポイントは。

長谷川

完全にドリフターズのリーダーですよね。ムードメイカーだし。

東山

ほんと? 多分この現場だけだと思うよ……。

神田

優しいです。

長谷川

優しい。めちゃめちゃ優しい。

山田

ドリフターズじゃない僕も、稽古場で近くにミツさんがいるとすごく安心する。

長谷川

しかも喋りやすい方なのできさくに話ができるけど、歌を聞くと「やっぱすごい人だ」って思います。そして先ほど言った、僕が大爆笑している理由のほとんどは彼です(笑)。誰も気づかないところでボケをしています!

東山

ちょっと小ネタを入れたりしちゃうんですよ~。

長谷川

誰も見ていなかったらどうするつもりなんだっていう……。直前に僕が気づいて「あ、やってる!」って思って笑っちゃう(笑)。

山野

舞台上じゃないでしょ?

東山

さすがに舞台上じゃないですよ(笑)。

長谷川

『1650 Broadway Medley』のシーンで僕はミツさんとパートナーを組んでいるんですが、譜面が落ちると必ず拾ってくれます。

東山

あとは開が、持ってきた楽譜を(プロデューサーに)断られたショックで譜面台にバっと置くんですが、だいたいそれがさかさまなんです。だから俺が戻すという……こともやってます。直さなくても誰もわからないと思うんですが、一応、気になるからね(笑)。

伊藤

ミツさんは本当に視野が広いですよね。芝居だけじゃなくても、「今日こうだったんです……」って話すと「そうやったね」ってちゃんと見てくれている。しかもさらっとフォローしてくれたりして。僕が女の子だったら「好きです」って言ってます……。ミツさんの「大丈夫やで」を聞くと、本当に大丈夫なんだって思える。愛のある方です!

――それでは山田さんの見どころを教えてください! 先ほどライチャス・ブラザーズの話題は出ましたがそれ以外では。

東山

元の舞台での見どころは……ニール・セダカ役でしょう!

全員

ニール・セダカ!

伊藤

元さんの見た目からは想像できないですよね。王子様とかが似合う方じゃないですか。そこを見事に裏切ってくれます。

神田

注目してほしいよね(笑)。普段の元君を見た上でのあのギャップ。僕らが一番楽しんでいるかも(笑)。

山野

キャロルを口説くニック役もね。

東山

そういう意味で言うと、僕らドリフターズはショーとしてお客さんをどう楽しませるかということに注力しているけれど、元やヤス(山野)は芝居に絡む役どころが多いよね。初演を経てまた一皮むけているんじゃない?

長谷川

「良くなりたい」という気持ちがある誠実な人ですよね。僕、オーディションで一緒だったんですよ。その時に控室で「声、すごいですね」「どういう勉強しているんですか、興味あります」って話しかけてきてくれて。オーディション現場なんて言ってみればまわりはライバルじゃないですか。そこで初対面の人に「すごいですね」って話しかけていく元君がすごいなって思いました。

山田

いやあの時は開君の歌を聞いて、その声に恋してしまったんですよ。絶対話しかけよう!って思ったの。僕が今回心がけているのは、ニール・セダカやニックは笑いを誘う要素も強いのですが、アーティスト自身が音楽を楽しんでいて、その気持ちがお客さんを巻き込んで笑いまでいけたらいいなって。ライチャス・ブラザーズも、彼らが“正当な兄弟”と呼ばれるようになったのは、黒人から本物のソウル、正しい(ライチャス)ソウルを受け継いでいるという意味でこの呼び名になったそうなのですが、僕もその“正当なソウル”と呼べる魂を持って楽曲を歌えるように心がけています。

山野

真面目!

東山

いやとにかく真面目だよね。“花”とかもやっぱりこういう人が似合うんだよね。優しい人しか花、育てないでしょ。

長谷川

ドリフターズは誰も花を持つイメージがない(笑)。

伊藤

初演のときも、お客さんからいただいた花を大事に大事にして、初日から千穐楽までずっと飾っていましたよね。僕たちがもらった花に関しても「こうしたらいい」ってアドバイスくれたし。元君の楽屋にいくとお花が生きているよね。

山野

今回は(感染症対策で)差し入れ禁止だし、残念だね。

山田

そうですね。

――最後に皆さんから見た山野さんの魅力をお願いします。

長谷川

声……ですよね。

神田

もうすごいよ。あんな音(低音)が出るんだって。もともと低いんですか?

山野

声変わりしてからは、そうですね。でも子どものときはボーイソプラノでしたよ。

伊藤

話し声はそんなに低く感じないですよね。開君には高音でびっくりしましたけど、それこそ読み合わせで初めてライチャス・ブラザーズの歌を聴いたどきには「えっ」ってなりました。

山野

あそこは、その直前が『The Locomotion』で皆さんがめちゃめちゃカッコいいグルーヴで歌って、踊り狂って盛り上がっているのと対照的に、動きも少なく低い音で出ていくので。もはやギャグですよね(笑)。

東山

『My Little Darlin’』も歌っていますけれど、あそこって意外と難しいよね。ヤスはさらっと面白くやっているけれど、口ずさもうと思ったら「むずい!」ってなりました。

山野

初演の時は音が全然取れませんでした。すごく練習した。

山田

ヤスは発声の良さで注目されることが多いと思うのですが、同じシーンに出ることの多い僕としては、毎回必ず芝居に何かを加えてくるところがすごいなと思っています。音楽だけでなく芝居に関しても造詣が深い。

神田

考え方にしっかりとした根っこがある人ですよね。

伊藤

舞台上はもちろんですが私生活においても堂々としていますね。自分の意見をしっかり言える人。

山野

そんなことないですよ、ひとの顔色をうかがいながら生きていますから(笑)。でもそう見えるとしたら、このカンパニーの皆さんが安心感があるせいかな。ひとりひとりが素晴らしいアーティストで素晴らしいミュージシャンだからリスペクトできるし、人間性も好きという環境だから、僕もリラックスできているんだと思います。

山田

確かにこのカンパニーは心地がいいよね。

――ところでお話にも出てきているように、このミュージカル、皆さんはそれぞれ“伝説のスター”を演じていくわけですが、スターを演じるにあたって気を付けていることはありますか?

伊藤

僕はポジティブであること、かな。色々なスターがいて、私生活がめちゃめちゃのスターだったとしても、ファンの前に立つ時はプロフェッショナル。パッションを持って堂々と、という気持ちでやっています。

神田

僕は、スターを演じるのも、普段のお芝居と変わりません。でも難しいのは、自分が自分に対してスターであるという認識をしたことがないというところ。ただ前回、お客さんが入り、照明が光って音楽が鳴って、自分たちが舞台に出ていく、その一歩で世界が変わるという経験をしました。あの場所のエネルギーを知っているから、そこに行くための努力はするけれど、僕らが特別なことをしなくてもステージが僕たちをスターにしてくれると思っています。いつもと同じように、その人がどういう人間なのかということを掘り下げるだけです。

長谷川

今回僕が演出を受けて印象的だったのは、ただスターとしてそこにいるのではなく、時代背景が重要だと言われて。黒人と白人がいて、当時はトイレも同じものを使えない、同じバスにも乗れなかった時代。でも音楽の中では黒人が大スターとして存在できる。当時のドリフターズはすごく特別だったという言葉を大事にしています。そして振付のジョイス(・チッティック)が、僕もトレーナーをしていますが、その視点からも目標にしたい人なんです。ああいう風に人を応援していきたいなって。その彼女が「このミュージカル、ダンスはたくさんあるけれど、もともとのドリフターズはダンサーじゃない。けれどそこに動きをつけたのだから、動きが歌にならないといけないよね」と仰っていたんです。なるほどなと思いました。その言葉を大事に、ただ存在するだけでなく、ドリフターズがスターとしている意味を考えるようにしています。

東山

僕もジョイスとの出会いが大きいです。彼女の精神、パッションを僕らは信じて、音楽を感じてやることで、僕らはスターになれる。というか「なるしかない」、そう信じてやっています。

山田

彼らの持つ音楽性がその時代のお客さんに受けたから彼らはスターになっていると思うので、その瞬間の音楽をどれだけ自分の身体にしみ込ませて、自分が楽しんで、お客さまを楽しませることができるか。そこに自分がスターになれるかがかかっているのかなと思いながらやっています。

山野

ドリフターズしかり、シュレルズしかり、ほかのみんなは4人グループだったり、MARIAはソロですがダンサーと一緒に歌っているのですが、ライチャス・ブラザーズは帝劇の舞台の上に僕と元君のふたりだけなんです。コーラスは入ってくれていますが影コーラス。本当に舞台上に僕らふたりだけ。駆け出しの俳優である僕がそういう環境に立てるって、今の日本のミュージカルの構造で、ありえないことだと思うんですね。それが、この作品の力を借りるとできてしまう。すごく夢のあることだなと思います。初演の時はその重圧を感じてビビったりもしましたが、ライチャスが歌う約2分の空間と時間を、コーラスから照明から何から、その存在を背負って立つことの楽しさを再演になってから感じられる気がします。もちろん緊張感も怖さもありますが。なので、楽曲の良さや、キャロルたちが命を削って書いた曲の魅力を、僕たちの身体と声でどう伝えられるかを一生懸命考えることが、スターとしてそこにいるということに繋がっていくんじゃないかなと感じています。

そのほか、ツボなシーンは……

――最後に、ここにはいない方のシーン含め、皆さんのツボなシーンを教えてください!

山野

こんなことを言っていいのかわからないのですが、アッキーさん(中川晃教)ってすごい人だと思うんです。歌も素晴らしいし生活もストイックで、めちゃめちゃ尊敬しているんですが……もともとピアノを弾く方ですし、(ピアノに比べて)ギターがあまり得意じゃない(笑)。もちろん舞台上では弾くふりだけで実際に音は鳴らないのでいいのですが、あそこはいつも可愛らしいなと思って見ています(笑)。

神田

でも今回、がんばっていらっしゃいますよね。

山野

伊礼さんに習っていましたよね。

伊藤

アッキーさんで言えば、フレージングが毎回違うんですよ。20公演あったら20回、一度も同じフレージングにはしない。その瞬間一番カッコいいと思ったものでやっているんですよね。特に2幕のバリー・マンのソロはすごいです。そんなに引き出しがあるのか、って感動する。

山野

ソニンさんのシンシアとの相性も絶妙ですよね。

長谷川

譜面を投げるところとか(笑)。

神田

僕、唯一アッキーさんと絡むシーンが、ビター・エンド(2幕のクラブのシーン)で飲み物を持っていくところなんです。絶対そこで「これ、ダブル?」って聞いてくるの(笑)。ウィスキーがシングルかダブルかって。しかもシンシアと話している合間に入れてくる。だから俺もふたりの間に入っていくタイミングをすごく気を遣います。でもうまくハマると気持ちがいい。ぜひ注目をしてください(笑)。

山田

僕はルシール(ドニー/武田真治の秘書)役のなつこさんが『It Might as Well Rain Until September』で音楽に乗ってきちゃうところの顔が好きです!

山野

わかる。途中までは普通に仕事しているんだけど、途中からノっちゃうんだよね。

山田

そうそう。ドニーは仏頂面で聴いているのに、ルシールはだんだん楽しくなってきちゃうの。

長谷川

へえ~。ぼくらドリフターズチームはそこのシーン、ミツさんの声を応援しているので~。

東山

(笑)。僕の声が流れるんですよ。ボビー・ヴィーとして……。

伊藤

僕のおススメは、2幕のあたまの『Chains』でのドニー。キャロルの曲の録音のシーンで、僕は真治さんと一緒にブース内でエンジニアとしているのですが、真治さんは本当にちゃんと聴いてドニーとしてメモを取っています。キャロルが歌詞を間違えたらそれをメモったり、ちょっと音が小さかった日は「もう少し音を上げて」とか。キャロルの調子がいいときはドニーも満足げに身体を揺らしていますし。本当に細かくやっているので個人的にはそこがツボです。

東山

俺は、あんまり自分で言うのも何なのですが、ドリフターズの早替えに注目してほしいかな。

伊藤

あれは本当に知ってほしいですね!

東山

『Up on the Roof』から『On Broadway』、そのあとの『The Locomotion』まで、一歩間違えたら間に合わない緊張感がある。

神田

開はめちゃめちゃ舞台裏を走っています。

東山

逆の袖に行かないといけないからね。

伊藤

猛ダッシュして、かつ早替えしている。

山野

お客さんにとっては、大ナンバーがテンポよく次々と出てきてすごく面白いシーンなんですが、裏は大変ですよね。

伊藤

戦場です。

東山

僕ら、みんな頑張っていますので、ぜひ細かいところにも注目してほしいですね!

(取材・文:平野祥恵)

Copyright Toho Co., Ltd. All rights reserved.