ブロードウェイの初演を観た時の、深い衝撃は忘れられないですね。うねるような物語の壮大さ、そして、多彩なメロディーが飛び交う音楽の豊かさ。
当時まだ30代半ばにもいかない私は、楽曲のひとつひとつが持つ強烈なエネルギーに打ちのめされ、音楽的に難しい曲が多いからこそ、「挑みがいがある、歌ってみたい!」と願いました。楽曲がもつエネルギー。それは、アメリカの異なる人種たちが、与えられた場で必死に生き抜こうとするエネルギーを表しているんだと、今、改めて音楽に触れ、ひしひしと感じています。
登場人物たちは、ふと隣にいたり、街ですれ違ったりする、同じ街の住人。彼らは肌の色が違い、考え方も違う。だから心の中で、いや、面と向かって排除してしまうし、毛嫌いすることもある。
今回、井上芳雄さん、安蘭けいさんをはじめとする心強い仲間たちと共に、異なるバックグラウンドの者たちがひと所に共存する難しさ、大切さを描いていきます。今の世界情勢をみると、その道は想像を遥かに超えて厳しく困難なものかもしれない。けれども、小さくともひとつになれた瞬間のきらめきが少しずつ積み重なり、いつの日か大きな輝きになると信じたい。まずは、冒頭の大合唱を聴いてください。さまざまな民族を演じる出演者全員が心を合わせて歌います。
演出は、藤田俊太郎さん。15年ほど前、蜷川幸雄さん演出の『コースト・オブ・ユートピア』で演出スタッフ時代の彼とご一緒していたはず。その後、演出家として高い評価を得ている藤田さん、再会が楽しみです。