唐紅に水くくりながら・・・
歴史は嘘をつきます。
特に英雄というものは、人間離れした存在として歴史に登場します。
しかし、この坂本龍馬という人物は、歴史上めずらしいくらいの手紙魔であり
その手紙も、およそ当時の武士らしくなく、
話し言葉を交えユーモアに溢れた自由な文体で、時に絵まで加わり
彼の見聞きしたモノや感動が手に取るように伝わってきます。
そして妻であったお龍も、明治まで存命で、
龍馬との思い出話を生き生きと愉しげに語っています。
薩長連合や、公武合体、大政奉還など、教科書に出てくる歴史的な事件を全てそぎ落とし
この二人のカップルだけの物語に集中すると、動乱の幕末期に、
なんとも愛らしく楽しげな恋人が浮かび上がります。
この二人に共通するものは「生まれる時代が早すぎた」こと
男女が並んで歩くことなどもっての他だった時代に、
日本で最初のハネムーンに手をつなぎ出かけた二人
同じ価値観を持った「龍」の名を持つ二人の出会いはとても奇跡的で
その別れは、なんとも切ない物語なのです。
今回、「龍馬のくつ」のビジュアルイメージをどうするかということで非常に悩みました。
キービジュアルのようなものではなく、何か「気持ち」のようなものを表したかったからです。
そして、唐紅(からくれない)に川を染めながら流れてゆく紅葉にしました。
これは、崇徳院の歌に
瀬を早(はや)み岩にせかるる滝川(たきがは)の われても末(すゑ)に逢はむとぞ思ふ
(今は別れる僕たちも、この岩で離ればなれになった川の流れのように、いつか大海原でもう一度出会いましょう)という歌があり、離ればなれになった龍馬とお龍が、二人が夢見た大海原で再び出会えることがあったら素敵だなという僕の願いです。
林原めぐみ 宮野真守 山寺宏一
という最高のキャストで、今回はもう一つの坂本龍馬像に迫りたいと思います。
それは、出会うには時代が早すぎた二人の物語
お龍から見た、もう一つの幕末物語です。
原作・脚本・演出
藤沢文翁